とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

ガリバー旅行記

114冊目
大人こそ読むべき本

ガリバー旅行記

ガリバー旅行記

主人公レシュメル・ガリバーさんが色んな国にゆく話です。
タイトルだけで小人の国を想像した人がいると思いますが、その小人の国(リリパット)を始めとしたいろいろな国をガリバー氏が冒険します。
ゆく国は小人の国を始め、巨人の国、空中に浮いている国(ラピュタ)、馬の国と巡って……と、あんまり書くとそれぞれどんな国かわかってしまうため書きたくないですが、どれも奇妙な国だったということは確かでした。

さて物語を全体的に見てみると、バラバラの章でありながら本一つが一つの話としてまとまっています。ガリバーも成長? みたいなことしています。
本の内容もどんどん章を追うごとに、はじめにあったメルヘンチックな雰囲気が……と面白いことになっています。ここらへんは各自読んで確かめてください(投げやり)。




---(ネタバレあり)----



【小人の国】

登場シーン
初っ端の始まりで、かの有名な小人に囚われるシーンがあります。囚われシーンはもっとこう盛り上がり所にあると思ってましたから、まさかの出だし!? と驚いたものです。ただこのシーン、本当に出だしの出だしのことで、展開は(読んだ人はわかるでしょうが)この後どんどんと続いていきます。そればどんどんメルヘンチックなものからかけ離れていく、というもので、どうにも子供向けじゃないだろというような(暗く暗く風刺的な)内容が始まるんですよね。
はじめの国(リリパット)はまだ可愛らしいものでした。まだある種メルヘンチックな雰囲気は保たれているような気が……それでも戦争という題材が提示されているのですが。
読み終わってみると、全体的なぼんやりとした暗さからこの囚われたシーンが味わい深く思い返されます。

陛下と国と対立
皇帝は良識があり、なにより好奇心旺盛な人でしたね。ただちょっと野心があるようで、それのせいで最後あたりごたごたとしています。
この皇帝がいる国では近く、なんとかという島(ブレフスキュ島)と戦争中とこのことでした。すでに長い間している消耗戦のようで、皇帝はどうにかしてこのガリバーという男を戦力にしたいと思っていたそうです。(まぁあそこにいた殆どがそう思っていたことでしょう)
そしてガリバーは戦争に参加することにし、なんと敵戦力を奪い取ってしまうという意味分からない戦績を残します。小人から見ればすごいことですよね。なにが起こったのか驚く以前に、圧倒的な力(神)を見たような気持ちだったと思います。
ところでこの戦争の話題さらっと終わっていますが、ガリバーが良識あってよかったとしみじみ思います。(例えば殺戮に酔うように)ガリバーにちょっとした雑念があれば、両国ぶっ壊れてなにも残りませんでしたということもありえたわけですからね。こうしてほぼ互いん無傷で戦争が終わったことは全部ガリバーのおかげです。今後もう二国でごたごたが起こらなればいいのですが。

【巨人の国】

可愛いお乳母さん
ここで登場するグラムダルクリッチこそ作中一番のぐう聖であり、まっとうなき女神だといえます。彼女は確か女の子で(9つとか)歳からみればまだ幼い頃だというのに、作中トップレベルの良識と母性を併せ持っていましたよね。
今思い返してみても、彼女がいたからこそガリバーは巨人だらけの場所で生き延びれたんだと思います。いやぁ、今思い返しても素晴らしい女性でした。はじめは小動物を飼うみたいなノリ(始めから意思を持っていたことも考えられますが)かと思えば、最後あたりなんかもう母親かな? みたいな母性を見せています。
そんな愛情を持っていたからこそ、グラムダルクリッチとガリバーの別れは切ないものでした。グラムダルクリッチなんか直感で別れを悟っていますからね。
もう会えないでしょうが、彼女はきっとガリバーのことを思い続けるでしょう。

なにごとも小さな話
たとえガリバーが必死こいでイギリスの素晴らしさを熱弁しても、それは(たとえ小人を一人の人間だと尊重しようが)所詮小人が喚いているだけにしか見えないということのようです。これはただ単に規模が違う話のようで、僕らがもし同じことを小さい人から言われたとしても「はいはいワロスワロス」みたいな感じになると思うんですよね。それはたとえ小人の文化や技術がとても高度だろうがです。
ただその小さな人間が、僕らが知らない殺戮する方法など述べられて「どうです? 私はそのやり方知ってますよ?」と言われたら不快に思うでしょうね……。小さな人間がそんなえげつないことをするもんだなと、陛下と同じように思うと思います。そして聞き手である陛下が興味を示さなくてよかったです。下手すればここで人類の行方が決まっていたのですからね。
あとここ面白いことに小人の国からの対比みたいな演出になっています。小人の国である種の制圧感を持っていたのが嘘のように、ここでは無力な展開が続いているんですよね。ガリバーには悪いですが、物語としておもしろいです。

【空を飛ぶ島とか】

ラピュタ
サブタイトルに驚きました。あの有名な作品の元ネタになっているらしいです。
さてその飛島とは、作中唯一外見こそ同じ人間でした。ただ思考は全く違うようで、なんか奇妙で気味が悪い場所でしたよね。たぶん映像化したらこの章が一番薄気味悪い映像になるともいます。
この人達普通に暮らせているんでしょうかね。たしか発明屋敷でしたっけ? 学校とかありましたけど……その、研究内容が徒労というか、いや他にやることあるのでは? みたいな感じでしたよね……。どうやらここ、作者さんが痛烈な風刺をしている章らしくて、あの妙な実験にも何か理由があるとかないとか。(深く触れたくないので調べてないです)
しかし、こうしてみると奇妙だといえますが、僕ら人間も進化の過程を間違えたら、あるいは変なふうに育ったらうっかりこんなふうになってたかもしれないですよね。と、考えて1人ぞっとする僕でした。

その他の国たち
なんかいろいろな国が登場しましたが、いま印象に残っているのは幽霊の国、死なない人間の話ですかね。
まず幽霊の国ですが、ガリバーはずいぶん贅沢な体験をしたものだなと思っています。なにせそんな光景一生みれないような(それこそ神様でしか見れないようなこと)を見ているわけですから、(向こうの善意もありますし)とてもラッキーな体験だったと思います。でも生きた心地しなかったでしょうね、あのあたりは肌寒い事になってそうです。
死なない人間は、どうにも意外な盲点を突かれた話のように思えました。死ななければたくさん学べる! 遊べる! 色々見れる! などガリバーのようなことを持っていた読者は実際に死なない人間である方々から「いや死なないと逆に辛いよ」とマジレスされるという展開になっています。まぁ確かにいくら年令を重ねれれるとはいえ、それは「健康・若さ」という前提があってのことですからね……。

【馬の国】

卑しい種族
たしかヤーフでしたっけ、どうにも野蛮な理性のかけらもない種族が登場しました。しかしけれどもそれは「人間」でした。
読んでみればわかるのですが、展開として「彼らは劣っている、卑しい種族だ。理性のかけらもない」という見下した感情を持った上で、「いや私達も本質的には同じではないのか」と思わせるような構成になっています。まぁ実際に理性あれど僕らとヤーフは本質的には同じなんだろうなと思っています。極端な例かもしれません。けれどもほか種族から見ればヤーフも僕ら人間も変わらないものなのでしょう。
このヤーフの特徴やらいやらしさやら、そんな話題を上げるのもいいですが本を読んで各自考えたほうがいいと思います。

尊い種族
一方のフウイヌム(その国の馬のこと)は尊い人種でしたね。終始健全で現実的で前向きな話し合いが行われ、そこには決まって人格を陥れるような……そうですね、不純なことを考えながら話す者がいないようでした。
僕らがイメージする、上品な大人たちの会話をさらに上品にしたような尊い会話をしているんでしょうね。けれども向こうからすれば普通のことを普通にやっているだけとか答えてきそうです。そんな上品な言葉は会話してて楽しい、気持ちのよいことのようでなんだかいいなって思いました。
僕思うのは、彼らが上品な理由は教育が良いからだと思います。多少書かれていた文章の中だけでも、フウイヌムがやっている教育は健全でちゃんとしていることが察せられますよね……。教育に卑屈いやらしさなく、健全な大人が正しく子供たちを指導しているものですから、その大人を子供が尊敬して学ぶいいサイクルがあるのでしょう。いいことですね……。
ところで話がそれるんですが、この馬の話を読んでいると(ろくに見たことないのに)マイリトルポニーが頭から離れませんでした。

【まとめ】
はじめのリリパットはまだ「ははは」みたいな愉快な摩訶不思議なお噺だといえるかもしれません。しかし章を重ねるごとに、内容はえげつなくなり、生々しくなり、なんというかホラーっぽいような雰囲気すら出してきます。これは愚かな人類に対しての問いかけと……と誰でも思うようなことを考えているわけですが、そのエグさといったらとんでもないものでしたよね。
ところでこんな奇想天外な国が登場した中に、なんと日本も登場しています。これにはとにかく驚いて、「日本!?」と三度見ぐらいしました。ちなみにガリバーは日本で多少しか滞在しなく、そこでの感想は「日本語難しい」というあっさりとしたものとなります。僕からすれば「小人や巨人とコミュニケーションできてたのに……」と思ったものです。