とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

希望(仮)

111冊目
不真面目で不健全で、それでいて健全で大切な授業

主人公の山下幸司は大学受験を控え、大学近くのビジネスホテルにて一週間の宿泊を許可されていました。
大学、東京大学、彼にとっては異様な緊張感や高揚感を持っていました。なにせ病的な勉強一筋っぷり、加えて優秀な親の期待に答えなければならなく、それに反抗しながらも勉強を続け、ついに当日を迎えようとしているからです。
高倍率を予想できながら幸司は合格するだろうという確かな自信を持っていました。もちろんプレッシャーや緊張などそういったものもありますが、勉強に関しては恐ろしいほどやってきたのである種の楽観的な思想を持っていたのです。不安要素といえば、当時行われていた(物語の舞台は1978年です)学生運動が会場を占領したままであるか(機動隊が排除しました)、風邪をひかないかぐらいでした。

そんな状況下の中、幸司はいままで必死に勉強していたぶん、この誰の目も行き届いていないビジネスホテルという特有の場所にとてもウキウキしていました。当日前の追い込みはどこえやら、幸司は羽根を伸ばすため街に出ます。
一度母親と東大への道筋を歩いた以外は、東大すら近づくことはなく、行く先は小説や歴史がすきな幸司らしい俗な場所をふらふらめぐりました。そして観光のつもりでやってきた吉原にて、トルコ風呂やら強引な客引きに襲われ、偶然にも山谷という場所にたどり着くのです。

山谷、そこは世間に捨てられた人が集まる場所です。衛生面も悪く、匂いも強烈です。うろうろとあるく日雇い労働者や、すでに酔っ払っている人や、賭博をしている人やらがいます。
幸司はそれら異様な雰囲気におろおろしていると、一人のおっちゃんに声をかけられます。おっちゃんは不健全な言葉を吐きつつ、大声で一方的にひたすら話しかけてきました。
妙な絡み方をされるのだから、幸司は困惑し、さらに顔を赤くしました。ただでさえ目立つ格好なのに、こう大声で話されると目立つどころの騒ぎではないのです。
おっちゃんは幸司に「兄ちゃんみたいなのがここに来るんじゃないよ」と最後に忠告し、困惑している幸司に「ともあれおっちゃんの話を聞いてくれれてありがとう」と名刺を渡してくれました。おっちゃんは「なにか困ったことになったらここに電話しな」。幸司はその名刺を持って聞きました「この名刺、電話番号ないですけど」と、おっちゃんは「ありゃま」番号を書き記し、その場を去りました。

この会話で吹っ切れた幸司は山谷を散策することに決めます。
ホームレスと会話したり、衛生面の悪い場所で食事をしてみたり、飲酒をしてみたり。と、結果として幸司はたくさんの経験値を得ることとなりました。

テスト当日、幸司は余裕をもって試験に向かっています。いままで勉強していた分もありますが、ここ数日の経験のおかげでずいぶん気持ちに余裕を持てたのです。
いざ試験を始めても、「あぁ解ける」と安心するぐらいに気持ちも落ち着いていました。問題も時間内に解いて待ち時間、晴れて東大を感慨深く思います。
ふと頭をよぎります。きっかけはあのおっちゃんでした。あのおっちゃんのおかげで色々吹っ切れて、いまここに余裕を持っているのですから、幸司はあのおっちゃんに感謝をしながら……ごく自然に、ごくごく自然にポッケに残ったままの名刺に手を向けます。
試験官に呼び出されます。

そこから単純な話です。幸司はカンニング容疑で東大受験の用紙は無効になるのです。
急に目の前が真っ暗になった幸司は途方に暮れ、ビジネスホテルに戻ります。
持ってきたお金はいくらか残っていますが、もう帰る場所もない幸司にとっては不安な残高、ビジネスホテルにも滞在してられません。思い詰めた幸司はふらふらとビジネスホテルを後にするのです。



-----(ネタバレあり)-----

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あばばばば

110冊目
ギャグみたいなタイトル

主人公保吉は、学校に赴任してからずっと通っている小さな店がありました。すでに無愛想な店の主人と顔見知りになっており、互いにそれを知りながらもそんな話さない(主人が無愛想なため)日々を過ごしていました。

ある日のこと保吉はタバコを買いに店に訪れると、店の勘定台に見知らぬ若い女性が立っています。普段は仏教面の主人いるはずなのに……と、驚きながらも「タバコがほしい」と女性に言いました。西洋髪で19ほどに見え、まるでまじり毛のない白猫のような女性は「はい」と答えました。
が、その白猫のような女性は接客がどうも初々しく、出してきたタバコも保吉が欲しいものとは違っていました。保吉は指摘をすると、女性は顔を赤くし、ドタバタとあたりを散らかしてタバコを探します。それでも見つからず、しばらくして後ろから察したのか主人がタバコを持ってきて保吉に渡してくれました。

これが保吉と女性の出会いでした。
そんな初々しい女性はその後、保吉がいつ店にやって来ようが勘定台の後ろに立っているのです。


------(ネタバレあり)-----

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法令用語・契約用語の見方・読み方・使い方

109冊目
知らないことばかり

タイトルのように、あの気難しい法令用語やら契約用語についてわかりやすく書かれてある本になります。
ざっと(代表的なものを)全体的に書かれてある本なので、何もわからな人でも読めると思います。

内容といえば、はじめに「法とは…条とは…」など法律の説明から始まって、分からない単語はコラムのように一つ一つ丁寧に紹介されています。加えて例文(と言うのだろうか)、実際の条文など例に出てくるので「実際はこんな風に書かれてあるんだ」と思うことができます。
そして最後の方には、実際の(とはいっても著者が作ったサンプルですが)契約書を眺めながら、振り返るように用語が書かれてあるのでわからない人でも読み解くことができると思います。
直ちに・速やかに・遅滞なく・当分の間や悪意と善意の違いがわからない人は読んだほうがいいかもしれません(説明は本書にあります)。

※今回もネタバレありと書きますが個人的に気になったところを挙げていこうと思います


-----(ネタバレあり)-----

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九年目の魔法 下

108冊目
少女の妄想、英雄、出会い、からの魔法 下巻

主人公ポリーィは妄想をするのが大好きな女の子です。そんなポリーィにはリンという(友達と言うには大きな)友達と大きな友達がいて、彼と妄想の内容など話したり手紙などをしてやり取りを続けていました。

さて、現在大学生のポリーィは思い返します。そんな人が本当にいたものか、と。
なにせここ数年ほど彼の記憶が全くなく(全くというかさっぱり忘れていた)、自分もありえないと思いながら思い返したとしても、あの異様な経験を思い返すなり不確かな記憶としてふわふわと漂うのみです。
心配になったポリーィはリンの痕跡を探してみることにしました。彼とは手紙のやり取りをしています。ホコリの被ったプリントの層を探ってみます。が、それらしき手紙は見つかりません。けれども貰った本はあります。『火と毒人参』の絵だってあります。連鎖するように、曖昧だった記憶もどんどん蘇ってきます。

騒がしくしていたところ、おばあちゃんが顔をだしてきました。ポリーィは尋ねます「本を送ってくれたリンって人覚えてる?」、おばあちゃんは「おぼえてないね」と答えます。ポリーィは説明してみるも、おばあちゃんは「いない」と言い嘘をついているようには見えません。
ポリーィは改めて様々な出来事を思い返してみます。でも、やはり彼は確かに「いた」という感覚はありました。

ポリーィは改めてリンの痕跡を探しに行くことにします。


※これは下巻の感想です。上巻はこちら:九年目の魔法 上 - とある書物の備忘録





------(ネタバレあり)-------

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九年目の魔法 上

107冊目
少女の妄想、英雄、出会い、からの魔法 上巻

なにかになりきって、なにか設定を考えたり、互いにわかり合うごっこ遊び(「リアルおままごと」みたいなもの)が好きだったポリーィ・ホイッテカーという女性がいました。
彼女は今、大学一年生を控えベッドの上で奇妙な感覚を覚えています。
それは初めて読んだはずの本に既視感をもっている、というもので、その奇妙な感覚は額縁にも向けられます。額縁に入った写真、それは黄昏時に畑で燃えるいくつかの干し草の写したものでした。
少し前までこの絵は動いていました。燃える干し草の煙のさきに誰かがいるような、場合によっては馬も見えたはずなのに、今や単なる写真にしか見えません。ここでポリーィは気が付きます。そもそもポリーィは馬を見たことがないのです。

なぜ奇妙なのか理由を探るため、ずっと前のことを思い返すしかないとポリーィは考えます。そうして思い返すと共に、当時一緒にいたニーナという友達と、遊んだ、お葬式での出来事に気がつくのでした。

ポリーィが10歳の頃の話です。友達ニーナは飽きっぽい性格をしており、なにかと「友達やめる!」と言ってくる女の子でした。ポリーィは絶交になるのがいやで、彼女とくっついて行動をしていました。ある種ニーナの言葉がいい脅しとなり、臆病なポリーィを勇気づけていた節もあったのです。
あるハロウイーンでのこと、ポリーィとニーナはおばあちゃんのはからいでハロウィーンの衣装を着せてもらえることになります。二人は喜んで、服を着て街に繰り出します。
しばらくハロウィーンの行進をしたのですが、ニーナは相変わらずの無茶苦茶なことを言いながら、人の家の塀を登り、人の庭に入っては、別の庭にまた飛び込んでを繰り返します。ポリーィは後を追います。ともに夢のように楽しい時間でした。

そんな無茶を繰り返していると、あるシーツの後ろでポリーィはニーナを見失います。あたりを探してみると、ニーナはたまたま開いていただろう建物の中に入る姿をポリーィは見つけました。ポリーィはドキリとしながら迷い、やがて勇気を出して建物の中に入ってくのでした。

中は静かでした。周りの大人達は魔女の格好をしていたポリーィと同じように黒い服に身を包んで、なのにパーティーのような異様な雰囲気を持っています。ポリーィはあたりをめぐりながらニーナを探しますが、つい見かけたニーナは見当たりません。
やがてパーティーが始まるのか席につくように言われ、ポリーィも適当な席につくと、誰かがなにかを読み始め、ときより息を呑むような、あるいは喜びを隠す雰囲気が立ち込めます。
ここでポリーィはやっと気が付きます。これは魔女のパーティーではなく、葬式なのだと。

しかしいまさら席を外すには怖じけつき、どうしたものかとポリーィは頭を抱えます。そこにひょろっとした長身の男の人ががこちらに見るなり席を外そうと合図をしてくれました。
彼はトーマス・リンという名の男性であり、外した席のさきで談笑をすると、なんと彼もごっこ遊びをしていたというのです。

仲良くなる二人、これをきっかけにポリーィの運命は奇妙な方向に動き始めるのでした。

※まだ下巻読んでません。

----(ネタバレあり)-----

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「健康な土」「病んだ土」

106冊目
いま土がヤバイ!(危機的状況という意味で)

土のことについてや、土の現状について書かれてた本になります。
傾向といえば「危機喚起」といったもので、データと照らし合わせながら「土やばい」という主張で一貫していました。
ほか土の歴史やら、土の構成やら、土に巡る物事はけっこう詳しく書かれてあるので土について知りたい人も読めばいいかと思います。

個人的に、いまの日本の大量生産大量消費に疑問を持っている人に読んでもらいたいですね。
まぁなんというか、土がいままさに笑えない状況に置かれていることがわかると思います。


※今回もネタバレありとありますが、気になる所を挙げていこうと思います。

----(ネタバレあり)----

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