とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

ゼブラ

122冊目
男の子の名前はアダム・マーティン・ゼブリン。

アダム・マーティン・ゼブリンという男の子は、いつからか「ゼブラ」という愛称で呼ばれていました。
ゼブラは走るのが好きです。とくに急な上り坂を登りきったときは走らずにはいられなくなり、駆け出すと足なんかなく飛んでるような気持ちになるのです。それはまるでシマウマと言うよりワシのような気持ちでした。

一年前のこと。ゼブラはフランクリン通りをワシになって駆け下りていると、唐突に黒い影が現れます。ゼブラはそれがわからないまま暗闇に吹き飛ばされました。
そのせいで医者から「もう前みたいに走れない」と宣告されますが、それでも幸いなことに体は左腕を除いて問題なく動きます。足は数年でギブスを取れるでしょう。が、左手の方はもうどうなるのかわからず、さらにしばしばつったような痛みがあります。
そんな憂鬱になるのも無理ないゼブラの前に男の人が現れます。彼は左そでがからっぽなのでした。

上に本を紹介してますが、僕は教科書掲載の『ゼブラ』を読みました。

----(ネタバレあり)-----



ゼブラの身に起こった事故
物語の初めあたりはぼやかしていますが、よくよく読んでみると「車との接触事故」がゼブラの身に起こったようです。
ゼブラからすれば「かわいそう」と思う一方で、運転手からすれば「災難だったな」と言えます。なにせ事故前のゼブラは今思い返しても無茶苦茶だったと思いますから(下り坂を全力で駆け下りていたんですからね)。
そういえば僕も走って駆け下りるではないですが、自転車で下り坂を全力でおりてた時期がありました。度胸試しって意味も含みますが、「もしこの下り坂をブレーキなしでおりたらどうなるんだろ」という好奇心が強かったと思います。今思い返しても無茶苦茶でした。
男子である以上、たぶん男子である頃にそういった無茶を誰でもしているんでしょう。たまたま僕が幸運だったわけで、他の誰かは事故していたかもしれません。作中のゼブラは少し運が悪かったようで……いや事故して命に別状がないとなると幸運だったといえますね。

ゼブラ少年
物語の主人公であり、事故からふてくされているだろう男子です。そのふてくされている様子は「想像力の授業」で伺えることができ(とはいえ事後前のゼブラの様子は物語に書かれてませんが)、その様子から「事故後」は大人しい子供なのかなと思ったり、それを周りの人が気を使っていたのかなとか想像しました。
そんなゼブラですが、同じく腕を失っている男性と(ウィルスン)出会い、男性とともに成長しています。嬉しいこと彼は最後にトラウマになっていたあの坂道を歩いてみるという試みをするほどになっています。
個人的に注目したいのは、ゼブラがウィルスンに対して持っている興味半分の尊敬でしょうね。彼の半生に気を使いながら、やがてベトナム戦争の話題が出て、そしてウィルスンのために絵を描く(それはヘリコプターとシマウマ)というのがとても少年らしい優しさのような気がして良かったです。さらに言えば受け取ったウィルスンの返事とか良かったですよね。

アンドリアとの関わり
この作品を一度読んだ記憶はあるのですが、こんな甘酸っぱい内容だったかなと思い返したりしました。
主人公のゼブラとアンドリアとの関わりは、たまたま隣の席に座っていた異性程度のはずが、やがてバスを降りて奇遇(なんでしょうかね)、の散歩などしています。
アンドリアの話で印象深かったのはやはり、ゼブラが「指を動かせるようになった」と言った時の反応でしょう。読んでいる方なら「あそこねw」とわかってくださるあそこは、当時は知らなかっただろう単語「ツンデレ」ということを頭に浮かべました(まぁとはいえツンデレではなく年頃の女子みたいな反応でしたよね)。
あの終わりあたりにフランクリン通りを互いに歩いている時、なにをなにを話しているのでしょうね。ラブコメの波動を感じます。

ウィルスン先生
片腕を失った浮浪者みたいな感じの人物でした。正直当時の記憶を思い返しても彼に残る印象は「片腕を失った人」程度のことでして、こんなに人格のできた人物だということに驚いたりもしましたね。
ウィルスンは確か、ベトナム戦争で片腕を失ったそうでした。そこで物語には登場してませんが同士とも呼べるレオンという友人も失ったそうです。なんというかそれら踏まえると、最後に「ここにレオンと名前を書いてくれないか」というあたりは感慨深くなりますよね……。思えば初めてゼブラとウィルスンが出会った時(正しくは2回目ですが)、ウィルスンは名前の部分にシマウマを書き加えていましたね。関係ないかもしれませんが、それを思い出しました。
彼のエピソードについては個人的に、ゼブラが作ったヘリコプターの模型を褒めているシーンが好きです。

【まとめ】
教科書シリーズの感想になります。以前の『さつき』でも思いましたが、教科書に掲載されているだけあって、有害な描写(人が惨たらしく死ぬなど)もなく、爽やかな内容となっていて、物語としてもきれいにまとまっていて、「これぞ教科書!」といえるようないい読後感を覚えています。
たまには、こういった作品を読むのもいいです。有害な作品が悪いってわけではないですが、たまにこういったきれいな作品を読むと「いい…」としみじみ思います。