とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

アトランティスは沈まなかった 伝説を読み解く考古地理学

90冊目
思ったよりすごい本だった

アトランティスという大陸のような島があったという伝説は聞いたことがあると思います。
そのアトランティス(主にプラトンが記述した文章)を著者が意外な観点から考察を続けた本がこの本になりますね。
文章で書いてみると「よくあるアトランティスは実際にあるのかどうか検証する本」程度で終わってしまうのですが、この本の面白いところはタイトル通り「アトランティスは沈んでいなかったのだ!」という展開で考察されるところにあり、その主張や彼の示す説が論理的で(あまり詳しくない僕が言うのもなんですが)「いやありえるかも……」と思わせるところにあります。

そして彼(著者)自身、その考察をお遊びのように続けてゆくんですよね。
その「お遊び」が僕らの知的好奇心をくすぐり、とてもロマンがある本だと思いました。

この本は「アトランティスは沈んでいない」というところから始まり、実際そうなのかの検証、プラトン記述の建物について、巨石文化、オリハルコス(オリハルコン)について、DNAの話(奴隷うんたらかんたら)……などでしょうか。
「合っている」「合ってない」を置いておいて半信半疑で読むたぐいの本だと思います。しかし半信半疑では思えないほどに、この本の説は強力だと思いました。


(ネタバレありとありますが、今回も気になった所を上げていこうと思います)

----(ネタバレあり)-----


この本が生まれる経緯について
しょっぱな作者による前書きの部分ですが、

(前略)アメリカからヨーロッパにむかう飛行機の中で、ふうっと眠りにおちて夢をみた。

スウェーデン南部のわたしの家の近くにアレ・ステナルという列石遺跡があるが、そこに立っている石は冬至の日に太陽が昇ってくる方向に向けられている、という夢だった。夢から目覚めて、窓の外に目をやった。きれいな満月が主翼の上のほうにあった。この月を見つめているうちに、明るい流れ星が月のまん前を落ちていった。(後略)

家に帰ると、そんな夢のことはきれいさっぱり忘れてしまった。ところが、約六週間後のある夜のこと。ふたたび夜の飛行機に乗ったあと、ふいにこの夢のことが頭に蘇ってきて、何としても調べてみなきゃという気持ちで、いてもたってもいられなくなった。

午前一時ごろ列石のところに通りがかり、わたしは車をとめた。黒い毛布にくるまって車から出て、尾根の上のほうへとよじ登っていったわたしの姿は、まるで死神のようだっただろう。(後略)

夢のとおりだった。列石は正確に北西――南東方向をさしている。この緯度では、冬至の月の出(と夏至の日の入り)はまさにこの方向なのだ。午前二時ごろに車にもどったとき、いままさに地平線の上にのぼってこようとする大きな彗星を、わたしの目がとらえた。彗星の頭はわたしの村を指していた。

ちょうどヘイル=ボップ彗星の話題がニュースをにぎわせている時だったが、わたしはずっとジャングルの探検に出ていたので、そのことを知らなかった。わたしは彗星を見て、神々しい気分に満たされた。

ざっくりとした引用ですが、僕の言いたいことがわかると思います。
(仮にいいように加工されてたとしても)この運命的な出来事といえる過程が、まるでなにかの物語のように美しかったと思ったんです。

アトランティスは沈んでいない
なぜ? という問いかけに「だって今もアトランティスがあるからさ」という答えになっています。アトランティスと言われたその場所は「アイルランド」として、土地の大きさの話、土地の形の話、それらを踏まえて、

(前略)このことは、統計的には、アイルランドがこの特徴に偶然合致する確率は二パーゼントであることを意味する。

と、そもそもの場所はどこかなど吹き飛ばして、記述された「(プラトンによる)土地の描写だけで」「アイルランドアトランティス」であることを証明してしまいます。
僕だって「まさかー」と思ってましたけど、読んでみると「もうアトランティスアイルランドでいいよ」みたいな気持ちになっています。過信するつもりはないですけど、それぐらいの合致度というか、仮説が正しいのではないか、という雰囲気が出ていましたよ。
それからこの仮説を中心としていろいろな展開されまして、(ことごとく合致してゆく)説を眺めては「すげぇ!」と思ってました(小並感)。

興味深かった話
ざっくりとした感想あれなので、個人的に興味深かった話を引用交えながら上げていきます。

天体落下は昔のさらに大昔の話
引用の引用になるのですが、著者が参考にしている(むしろ殆どの情報源としている)『ティマイオス』と『クリティアス』(プラトンが書いた作品)にて、

(前略)君たちは、古い歴史に由来する昔の智慧を知らなければ、古代の学問もまるで伝わっておらん。その理由はこうじゃ。いままで、さまざまの原因から人類の大破局がいく度も起きておる。その中でも火と水によってもたらされたものが最大だが、その他諸々のことが原因で起きた小破局も数知れないのじゃ。

とソロン(登場人物です)が古株の神官から話を聞くんですよ。(著者の)本によると、この神官は「パエトンの話*1は今でこそ神話じゃが、実はあれ、実際に起きた話なんじゃ。あれは天体の落下と地球上の大火災を示しておる」と続けるんです。
過去の話をしているというのに、その過去の話から「神話(でも実は本当の話)」がでてくるのですから、その神話はもう紀元前の更に数百年前、あるいは千年前だってありえますよね。
気が遠くなるほど昔の話になりますよ……。どれぐらい前かというと、

(前略)アトランティスについての物語すべてが、プラトンによって紀元前三六〇年ごろから三四七年ごろの間に書かれた、二つの対話篇「ティマイオス」と「クリティアス」(後略)

その上に、上ある話の展開そのものが「更に前の時代」を表しているんです。とはいうもの、

プラトンの対話篇に登場する人物(つまりクリティアス。現実にはプラトンの曾祖父だった)が、ソクラテスに向かって、理想的な都市国家のことを話しているという設定である。(中略)クリティアスはこの話を祖父から聞いたという。このクリティアスの祖父は祖父で、自分の父が有名な政治家のソロンから聞いたと語ったらしい。そしてソロン自身はというと、紀元前六〇〇年ごろのサイスで、エジプトの神官から教わったのだという。

はい。ソロンと神官が出てきました。あの対話(パエトンの神話について話していたこと)は既に昔の更に昔を話しているということになっています。あの場で(紀元前六〇〇年のころ)「神話」なのだからその神話(実話とされている天体落下)はいったいいつの話なんでしょうか……。いやぁ、気が遠くなるほど昔の話ですよね(わくわく)。
ところで、作者さんはその天体落下について多少考察をしていました。

(前略)落ちた場所の候補としては、バルト海に浮かぶエストニアのサーレマー島(スウェーデン語ではエーセル島)のカーリ=クレーターは、紀元前八〇〇年から四〇〇年にできたものなので問題外だ。有望なのは、紀元前二五〇〇年ごろにアラビア半島に落ちて、町一つを消滅させた隕石のほうだ。(中略)アラビア半島に落ちた隕石のかけらがエーゲ海にも落下して、ギリシャに恐ろしい破壊をもたらしたのかもしれない。

と、こんな感じに述べています。
今はもうそんな情報が残ってないのでわかりませんが、仮にそんな前の話が(神話として)語り続けられているとしたならば、どこかに記録された書物やらあるはずなんですよ。ちなみに作者はそれはアレクサンドリア図書館にあるのではないか? として「(燃やしたり盗んだ奴は)永遠に呪われろ!」と言ってます。(本当です)

沈んだとされる島
まず前提を引用しておきましょう。(これもプラトンの作品の引用です)

アトランティスアトランティスの海(大西洋)に浮かぶ帝国で、他国の侵略のために自分から戦争をしかけて、ヨーロッパとアジアのいたるところを攻撃した。その当時は、船はまだ大西洋を航行することができた。(後略)

アトランティスの島の上には、同じアトランティスという名の帝国がある。この帝国はこの島の全体と、その他いくつかの島、大陸のいくつかを支配している。そればかりか、(中略)アトランティスは軍隊を派遣して、アテネ、サイス、それに海峡の内側の地域のすべてを征服しようとした。この戦では、アテネのみが屈服することなく、侵略者をはねかえした。こうしてアテネは他の民族をも奴隷の運命から救い、柱の内に住むすべての者たちに自由をもたらした。

※中略まえの「そればかりか、」は、入れたほうがわかりやすいだろうと思って切り悪く切ってます。実際はあの後に(アトランティスが支配した)他の国々が入ります。

しかしながら、その後まもなく、はげしい地震と洪水がおきて、わずか一昼夜のあいだに、アテネ人はみんなまとめて地中に呑み込まれてしまった。アトランティス島も同じようにして海中に没した。島があったところの海は航海不能となった。下に沈んでいる島が泥の暗礁となり、行く手を塞ぐからだ。

これが有名な一昼夜で沈んでしまった大陸の一節です。抜粋しただけなのにすごく長い!
さて、これに対して、作者さんの考察をあげていきます。

アイルランドとは別の場所の話をしよう。すなわち北海のことである。北海の南半分は浅く、氷河時代には陸地だった。つまり、スコットランドヨーロッパ大陸から突き出た半島だったのだ。もじゃもじゃのマンモス、もじゃもじゃのサイ、(中略)そして、ヒトも住んでいた。

氷河期が終わると、海面が上昇しはじめる。それによってイギリスが大陸から切り離された。ユトランド半島と北ドイツを起点としてほとんどイングランドにとどこうかという、細長い半島ができた。海面がさらに上昇すると、半島の先っぽが、縦二五〇キロ、横一〇〇キロほどの島となった。この島は、氷河期後の時代になって、初期の気候の安定期になってからも、かなり長く存在しつづけた。

紀元前六一〇〇年ごろ、〈ストレッガ地滑り〉と呼ばれている、大規模な海底の地滑りが、ノルウェー沖でおきた。それによって津波が生じた。(後略)

イメージ難しいかも知れませんが、イギリス(アイルランドとは別側)とデンマークとオランダを線で結んで中心辺りに「細長い島」があるイメージです。
イメージした人はわかると思いますが、仮にそんな場所に大津波がやってきたものなら地理的に(津波の伝播を考えて)とても大きな被害になったことがわかりますよね。実際大きな被害だっただろうと思います。
しかし津波だけでは、被害が大きかろうが一瞬で終わってしまいます。なのにその島は水没してしまった。理由は不幸の連続だったようです。

北米の内陸の氷が融けるにしたがって、アガシー湖という、カナダをおおう巨大な湖ができた。ハドソン湾はなおも氷結していたので、この水が大洋に流れ出すことはなかった。ところが、紀元前六一〇〇年ごろのある日のこと、この水が解き放たれた。(中略)世界中の海水面が約三〇センチも上昇した。もしこの時の奔流によって大量の氷が引っ張られたとすれば(それはおおいにありうることだが)海面はもっと上昇したことだろう。

同じ単語である「紀元前六一〇〇年」が出てきました。この時なにが起こったのか。
(余談:Fateで有名なギルガメッシュは紀元前2600年に存在したとされる王ですから、それより前ですね)

津波と洪水――これらの出来事は同時に起きたのだろうか? たぶんそうだろう。一方が他方の引き金となったのかもしれない。あるいは地震や流星雨などの第三の出来事によって、これら二つのことが同時に引き起こされたのかもしれない。エストニアのヒウマ島(スウェーデンではダゴ島と呼ばれる)泥炭から微細な球体が見つかっていて、数世紀の誤差で、この時代のものと考えられている。これは微細なガラス球で、大気中で隕石が爆発した時に形成されることがある。(後略)

さて、先前に書いたプラトンの作品による「島があったところは泥と暗礁となり航海不能となった」という文章を踏まえて、「そんな大きな災害(津波+洪水)があればその島周辺は(泥やらまみれて)航海不可能な状態ではないのか?」と作者は述べています。
ここまである細長い島の話をしてきました。この島は「アトランティス」ではなく、なにか「アトランティスではない他の島」の話として考えてきました。そしてその伝説はアトランティスが沈んでしまった話と似ており、ごちゃまぜになってしまったのではないか? と作者さんは述べています。(ここに書きませんがこの後なぜ話が混ざってしまったのかとか考察されています)
夢物語みたいな一日で沈んでしまった大陸をこうして仮説していくというのに、答えはあまりに現実的で僕はやや衝撃的でした。

ところで「失われた大陸」という単語を使い、「沈んだ島はあるが、沈んだ大陸はない」という考えを書いています。

(前略)沈んだ大陸などというものは存在しないということだ。(中略)もはやそのことを疑う余地はなくなった。現在では大洋の海底がプレートテクトニクスによって形成されていることが分かっているし、大洋の地形についてもきわめて詳しく知られている。地球上の海に沈んだ大陸が存在する余地は、まったくないのである。

ただし、失われた大陸というなら、これはまた話が別だ。もし昔のヨーロッパ人がアメリカの存在を知っていたが、何らかの理由で接触が切れてしまったとすれば、アメリカヨーロッパ人にとって失われた大陸だったわけである。(後略)

つまり「失われた大陸」という文章から想像される「津波などによって沈んでしまった大陸」なんてものはこの世に存在してなく、せいぜい「海水面上がれば陸地は失われる」程度の話で、「大災害よって沈んでしまった」のはある島での出来事だということであり、「失われた大陸」というものも「初期に存在した太平洋横断航海が途絶えてしまった(引用)」だということですよ。
上にあるプラトンの「船はまだ大西洋を航行することができた」という文章が改めて頭に浮かびます。

著者がこの本で伝えたかったこと
最後の第6章にていいこと書いてあったので引用していきます。

――アトランティスについてあれこれと説があるが、誰の説も信じてはいけない! ということだ。

ここまでいろいろ考察を行なってきたのに、急にこんなこと書かれてるのだからちょっと笑ってしまいました。
この第6章を一言でまとめるなら「確かな情報を自分で得ようとすること。自分の無意識を疑うこと。常識を疑うこと」でしょうか。
こうした(アトランティスの)考察など、まことしやかな情報はいたるところにあります。そういったことに「騙されるな!」というより、

油断しないで、人が話す主張を分析しなければならない。また、完全に理解しないかぎり主張を受け入れてはならない。(後略)

というように、心構えが大切だ! と言ってくれてます。

科学、論理、主張の分析――こうしたものはただ科学者だけのためのものではない。それは、つねに、万人のものだ。それこそが文明の土台なのである。論理的な分析は、自分自身を説得するための唯一の方法である。他人の思いこみをあたまから信用してしまうのは幼稚なだけだが、自分自身の思いこみをあたまから信用してしまうのは愚の骨頂である。

ここ辺りで挙げられた例をあげれば、「アトランティスに高度な技術レベルがあった」という情報を「(潜在的な大昔は不自由でいきあたりばったりな生活をしていた、という考えを踏まえて)それはない」と反射的に反応してしまう人のように、自分自身の思い込みというのは、それであって、みんな文化的な盲目を疑ってみろよというのです。

【まとめ】
書きたいこと多すぎてまとめれませんでした。そもそもアトランテスの知識が浅い僕がロマンを求めていろいろ新事実を知って驚いて、そしてその考えを引用しつつ書くにしても、そんなん4000文字5000文字じゃ……この記事分じゃ足りるはずないです。
ときに一通り読んで気がついたのは、真面目に検証したのは「アトランティス=アイルランド」というしょっぱなの説だけで、あとは考察の思考のままふらふらと考察を続けている、ということです。
言ってみれば適当なことを書いているわけですけど、僕としては翻訳者さん同様「彼の人柄をみているようで」おもしろかったんですよ。
いやぁ、ロマンがありましたよ。

*1:概要:ヘリオスの息子パエトンは自分が太陽の子だと証明したくなり、ある日ヘリオスの戦車に乗って空へ飛んだ。しかし馬はいうことを聞いてくれず、空を高く登ってしまい地上を寒くしたり、今度は下がったりしすぎて地面を焼いた。見かねた父親は稲妻を落として息子を殺した。パエトンは海に落下し、妹達は悲しんで泣き、その涙が琥珀になった。