とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

舞姫

89冊目
教科書に載っていたけど読んでなかった作品シリーズ、その②

舞姫

舞姫

主人公は(太田豊太郎)船に揺られながら1人、ドイツでの苦い記憶を思い返します。

早く父親が他界するという逆境もありながら、母親1人の手で育てられ、留学生として選べれるほどに太田は優秀な人間でした。
その留学先、ドイツでは日本では考えられない綺麗な生活をしていて、太田は驚きながらも自らを律し勉学に励みます。
やがてドイツの生活に慣れてきた頃のこと、下宿帰りの路地裏にて17歳ほどの女性がすすり泣いていることに気が付きます。太田は少し考え、心配かららしくなく女性に声にかけてみることにしました。


----(ネタバレあり)----


若くして海外へ
当時(異文化交流が始まりだした頃)の留学ってとても不安だったと思うんですよ。まぁ今も治安が不安定だからという不安要素もあるわけですけど、当時は当時の不安があったと思うんですよね。
しかしその不安というの、「周りとは違う」という当然の不安がから差別やらに繋がるかと心配になるのですが、そういうところこの『舞姫』では描写されてなかったような気がします。
そんな不安を関係ない僕が憂いているというのに、「国のため」という理由で強い意志のもと留学していた彼らはすごいなぁと思います。いわゆる僕と同世代(ウィキペディアによると太田は25歳)ですし、英語フランス語ドイツ語なんかも必死で覚えた(太田の場合は優秀でしたけど)んでしょうね……。
まぁ若さたる故にこの物語は破滅に進むわけですが。

出会い
この話は主に太田とエリスのラブロマンスみたいな感じに進んでいます。結局は発狂エンドとなってしまうわけなのですが、二人の出会いはなかなか良かったかなとか思い返したりします。
と言っても、読み返してみればナンパとなんら変わらない気がしてきました。あの描写から、かわいいから声をかけたなんてことも否定できません。
太田にしてみれば善意を持った行動ですけど、今後の展開を踏まえて「彼」に対する疑心感がとてもじゃないが拭い切ることが出来ないんですよ(読後感)。
わかるのは、エリスにとってこの時の太田はとても頼もしく見えた。ということぐらいですね。

恋愛が始まるにあたって
ただ慣れ合いで会っているだけというのに、会う弊害が至る所で出てきていましたよね。まず息子を憂いて死んでしまった母親、次に将来の道を絶たれてしまった太田とか、書いてみると太田側の被害が大きいようです。
エリス側というと、エリスなりに不便をしていたと思いますが、本人こそ「健気に頑張ろう」という程度に難所は乗り越えているようにも思えます。終始被害者感出している太田よりも芯が強いかもしれません。
でも環境が悪化しているのにすがってしまう気持ちはわかります。太田にとっては「初恋?」みたいな感じに捉えているのだから、このなにかと会いたくなるのも頷けます。しかしそんな甘い時間は長く続かなく、やがて本当に資金が困窮してくるんですよ。
「どうなるのか……」と心配したわけですが、颯爽と助けてくれた人いましたよね? そうです相沢さんですよ。僕あのとき「流れ変わったな」とか思いました。

相沢謙吉
ぐぅ聖でした。彼がいたからこそ太田が生き延びれたというわけで、エリスだって(最後は廃人となってしまいましたが)無事に生き延びれたわけでもあります。彼の行動理由が「友を助けるため」というところも良い人なんだなと思わせてくれますよね。
彼のやらかしたことはふわふわと頭に浮かびますが、結果的に彼は友を助けますし、エリスに真実を言うタイミングが悪かったのはありますが、特に問題ないよう思えます。
(問題を)強いていうなら彼は太田を買いかぶりすぎている、ことぐらいしょうかね。絶大な信用を彼にしているようですけれども、最後の最後で太田は「感謝している一方、多少恨んでいる」など思っているわけですから、下手に信頼したら足元を救われれちゃうかもよ、とか思ったり。

性格に難ありの主人公
読んでくれた人にはわかると思いますけど、主人公の小さな悪い癖(友達には強く言えない)などが発動してこのような結果になってしまいます。思うんですけど(当時の時代背景を考えてもなお)主人公がもっと無理を言ったらハッピーエンドになってた、かもしれないと思うんですよね。いや時代的に難しいのはわかっていますけど、例えば「今後ドイツと仲良くするためにも」みたいな機転のあること提案すればあるいは……かも知れない? という微かな希望はあるわけで。
それを考えただろうに太田は提案することもなく、偉い人の「行くか?」という問いかけに「行く行く!」なんて即答したものだから「そらそう(いう結果的になる)よ」と言いたいです。加えてさらっと流れていますけど、エリスにことを言う直前に貧血? で彼ぶっ倒れているんですよね。いや、別に持病なら仕方ないことですけが、「ヘタレかよ!」というツッコミが頭に浮かびました。せめて自分の口で言って欲しかった……。

つまりバッドエンド
私情が挟んで「やむなく」と言いたいところですが、それでも本人の様子からして「回避できたのではないか?」という疑念があるから悩みどころです。太田にとってもエリスにとっても単なる現地妻(当時位の高い人は場所によって女を買って囲っていたらしい)ではない相思相愛でしたのですから、この発狂エンドは読後感の後味の悪さをより一層強くさせています。
だれも悪意があって行動しているわけじゃないのがあれなんですよね。まぁ太田の周りはそういう人がいたわけですけど、主要メンバーからはむしろ「こうすればいいんじゃない?」という希望を言ってたわけで、なのに太田は「わかっていて」普通に悪手に即答してしまう……。一言が命懸けになる時代だからこそ、太田のあの癖はこの不幸にとどまらないとか思うんです。

【まとめ】
読破後に僕は「同じようなことを考えてる人はいるのかな?」とネットで調べたところ、「エリスがかわいそう!」「これ男のロマンってやつだろ」「こんなの教科書に載せるなんて!」「いやそれも文学ですし……」など論争が目に入り、「(いろいろな意見を見て)どっちも一理ある」とか思いつつ「時代なのかもなぁ…」と完結していたわけなのですけれども、ウィキペディアに「舞姫論争」というものがあって「昔も同じようなこと話し合ってたのかよ!」と思ったものです。
いつの時代にも論争があったようです。僕個人は「(良くも悪くも)そういう作品だから」という感覚で捉えてますけど。
まぁでも『舞姫』という美しいタイトルから、ドイツで出会った金髪美少女を孕ませて捨てた話なんて誰が想像できますか? この上げて落とされた感を覚えた人はきっと僕だけじゃないはず。