とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

ウィッシュリスト 願い、かなえます

165冊目
幽霊少女が末期老人の願いをかなえるために

ウィッシュリスト The Wish List

ウィッシュリスト The Wish List

少女メグはひょんな理由で少年ベルチと共に、近くに住んでいる老人ラウリー家に強盗を仕掛けることにしました。
二人は空き巣をするのですが、強盗団二人の想定外である「ラウリーは意外と耳が聞こえる」という初歩的なミスにより、強盗中ラウリーに見つかりショットガンを向けられるというお粗末な結果になるのです。
ただベルチには秘策がありました。それはベルチが飼っている番犬に相手をさせてその隙に盗んで逃げるというものです。ベルチが飼っている番犬は凶暴で、ベルチが指示をしたなら、指示がやむまで(あるいは相手が絶命するまで)指示を守る忠実で狡猾な存在です。

ベルチは犬にラウリーを襲うよう指示します。犬はラウリーの太ももにかみつき、ラウリーの太ももを深く深く抉りました。当然ラウリーは一撃でほぼ瀕死まで追い込まれます。
メグはベルチに犬を止めるよう言います。しかしベルチはやめようとしません。むしろ「ここでやめるのか?」と挑発するのです。
見かねたメグはラウリーからショットガンを奪い犬に向けます。けれども打てず、次にベルチに向けました。ここでベルチは犬に指示をして、犬は老人の肉片を吐き出し、老人はもう死にそうなほど弱っていました。
「救急車を呼ぼう」メグは涙を流しながら言います。
「老人が一人死のうが変わらないだろ」とベルチは言い返します。
言い合っても仕方なく、せめてもの誰かを呼ぼうと、メグはそばから立ち去りました。

ただ逃げた方向が悪く、メグはすぐに行き止まりに行き着いてしまいます。ベルチも犬もほどなくして追いついてきました。
そしてメグは決死の交渉を試みますが、思うようにはいかず、一方でベルチはメグをわからせようと一発脅しのショットガンを天に向けて撃つのです。ただ不幸なことに、彼ら彼女らが立つ場所はガスタンクがある場所でした。
打たれたショットガンの弾丸、一つが跳ね返って地面に飛んでいきます。小さな破片はガスタンクに貫通し、その場で大きな爆発を起こしました。当然二人は即死です。


ーーー(ネタバレあり)----



不幸な終幕
物語の初め、あんまりな理由で二人の若者(というか子供)が死んでいます。しかもその死に方が悲惨なもので、不幸な偶然の爆死といった感じでした。
物語終わってしまえばメグがベルチと絡んでいた理由がわかったりするのですが(わかってもこれも不幸な話でした)、わからないときはなんでこんな人と関わっているのか、そしてなんでこんなことになってしまっているのか、なんて思ってしまうほどに、彼女には不条理な不幸が待っていました。
いやもう、メグは全部悪い方引いてしまったような感じでした。この悪いことを引いてしまったという意味では、ベルチにも同情してしまいます。あとラウリーにも。

老人と再会
メグがあの世に向かった後にいろいろあって、人助けをするチャンスを手に入れることになります。そんなメグの先にいたのはなんと例のラウリーでした。
再会してメグも驚いたでしょうけど、ラウリーもかなり驚いたと思いますよね。今後わかってくるんですが、ラウリーは心臓病をもっていたのですから、この出来事がドキッンときて一発成仏なんてこともありえたわけですよね。あぶないあぶない。
とはいっても、ラウリーは意外にも呑み込みが早く、メグが目の前にやってきたことに対しての「使命」ということに気がついたうえで、皮肉を吐きながらも答えみたいなものを示してくれます。それは老人がやり残したこといくつかなんですけど、メグにとっては唯一残された道が示されたような希望を感じたはずです。

願い1つ目
「シンリーにキスをする」といったものでした。いきなり愛されている女優に対してキスをする、というめちゃくちゃな内容かと思えば、ラウリーとシンリーは依然付き合っていた仲のようでした。そして未練があるようなデートをしたとかなんとか。だからあの時のキスがしたいとか。
ただそのデートはかなり前の話のようで「そんなこと彼女は今も覚えているのだろうか」と心配になった僕もいました。そもそもラウリーの格好はまったくもって「貧相な老人」なので、シンリーの眼中に入らないかもしれないし、ましてやテレビ局に入れるような様子ではありませんでしたからね。そんな老人を見かねたメグが仕立てをするように動きます。
ここ、驚くべきところは「様になっている」ところですよね。今後出てくる展開から、ラウリーはわりと素はいいもん持っているんじゃないかなと思ってしまいます。
そんなきれいな格好をしたラウリーとメグですが、いろんな難所(警備員など)をこえて、ついにスタジオインしています。
そしてラウリーは緊張していたようですが、メグはノリノリで仕事をこなしていました。ここらの一連の流れは一つの物語が完結したものであり、美しいラブロマンスのゴールのようでした。思えばすでにメグの才能を垣間見えていましたね。

願い2つ目
「深夜のサッカーコートでゴールを決めたい」というものでした。これはラウリーが前々に忍び込んでやらかしてしまったこと、それらを挽回するためにわざわざあえて深夜のコートに忍び込んでゴールをするというものでした。
ここメチャクチャだったのはわざわざフェンスに上って侵入するところです。侵入って、わざわざフェンス上らなくても……って思っちゃうんですけど、一方で、男にはこだわるべきところがあり、ここもこだわるべきところなんだろうな理解できてしまいます。付き合ってるメグはいい人です。
サッカーボールを蹴るシーンで「サッカーボールはあるんだろうか」と疑問に思ったちょうどそのころに、見回りの警備員(マート)に見つかってかつてないほどヤバいかと思えば、前の出来事(例のキスの話)を知っている人っぽくて(むしろまえの警備員と近い人らしく)、分かり合えるかと思えば「それとこれとは別だ」となおやばい感ありました。
ここら辺でやっとメグの得意分野である言いくるめが大活躍していました。警備員は言い丸められた上にサッカーボールを用意させるという、素晴らしい働きをしています。おかげでサッカーボールを蹴ることができていました。
ところで、この適当なことを吹き込まれた警備員ですが、作中一番冴えた台詞を吐いた人物になるんでしょうか。

マートが背筋をぴんとのばした。「なぜなら、そのおいぼれはあなたの親友だからです。彼のために、そして、あの少女のために、やってください。あの子にはお手本が必要なんです」

いい人でした……。

願い3つ目
「以前いじめられていた奴をボカンと殴りたい」というものでした。ラウリーは以前「田舎者」としてボールから陰険ないじめを受けていたらしく、そんないじめっ子であるボールを殴ってしまいたい、そんな今までとはまた違った強い思いを感じることができる願いでした。
ここらへんでラウリーはメグに対して心を開いているあたりでもありました。契約者として、親友として、ラウリーは以前の思い出したくない忌々しい思い出をメグに打ち明けています。メグはその過去を眺めてから半ば賛成しないまま「協力する」といっていました。思えばこの時点でメグはいじめっ子といじめられっ子の結末を見抜いていたんでしょうか。
ラウリーの過去の話で思い出したのですが、ボールとラウリーが川で立ち会ったとき「ご主人様と呼べ!」と言われたあたり、あのあたりに「女子生徒たちが集まっていた」ってやつあったじゃないですか。ここでラウリーが軽く言い返してみれば、女子生徒たち狂ったように笑っていましたよね。あのあたり、女性特有の薄情さがリアリティあるなぁと思いました(個人的に)。
さて、そんな因縁の二人が立ち会うことになり、一発食らわせてやろうと玄関に立ったものの、なんと向こうから出てきたうえに、向こうはこちらを歓迎していました。そして過去の話を引っ張り出して、あの話をした上にまさかこちら側が「許す」展開になっています。ラウリーも大人になったなと思った一方で、平和的な終わり方ができてよかったなと思いました。
地味にここ「また会おう」とラウリーは言ってるんですよね。シンリーの時は言わなかったのに。

犬少年と毒舌妖精
二人ともかなりキャラが立っていました。
この二人、悲しいことに最後の最後までうまくいきませんでしたよね。いや(主人公が成功したのだから)悲しいことではないのですが、個人的にはエルフが気の毒な感じがあります。まぁエルフなので何とかなるかもしれません。でも犬少年はどんまいって感じです。
二人はたしか一回目の願い事から彼らの妨害をし、100%の善意に被弾して一時撤退、それからメグの願いあたりで再戦、ラウリー最後の願いで決戦が行われていました。全部ギリギリのところで失敗しています。
こうして考えてみると任務が失敗したのって犬少年が無能だったから、にまとまってきそうです。エルフには同情します。イシイはやはりどんまいって感じです。
ふと正直善意に被弾したってのに、ここまでに間に合わせているイシイの腕がすごいなって思いました。もっと言えば、エルフの要所要所にイシイの心配りが見て取れますよね。犬人間とエルフの掛け合いから、この計画を成功させたかったんだろうな、ってな感じがひしひしと伝わってきました。

メグの願い
ラウリー4つ目の願いの前にメグの願い事をすることになります。メグは長年恨みを持った人物(フランコ)に対して、一発お見舞いするというものでした。
この一発ぶちかますという願いの前に、メグの過去編を見ることになったのですが、そこにはこれはもうどうしようもないクズが登場していましたよね。このクズ本当にクズで、個人的作中ごくまれに出るクズい人物ランクに入り込むレベルでした。
ところでその過去編が終わってから、冒頭のベルチの掛け合いが始まるような時間の流れになるようでした。そう考えると、クズとかかってきた日常から、ベルチとの窃盗案件まで彼女の人生は何だったのか、救いようがないじゃないか、と思ってしまっても無理はないです。
そんなことを踏まえ、ラウリーはメグに全面的な協力をすることにします。
とはいっても、読んだらわかるのですが、メグとラウリーが到着した時すでにフランコは犬人間に乗っ取られていて、メグはそのよくわからない存在に初発の一撃食らわせています。思えばラウリーもボールに対して一撃殴っておきたいと言った上で和解、一方でこちらは初手一撃吹き飛ばしているあたり対照的ですよね。
違和感を覚えたメグはフランコが犬人間に乗っ取られたことに気がつきます。混乱しながらもメグは掛け合いをし、花瓶を投げて、それが形勢逆転に使がっていました。花瓶はなんと母親の骨壺だったようで(なんでそんなところにあるんだよ)、母親のものが残っていたよかった、それで形勢逆転よかった、と思う一方で、なんとも切ない感じが残っていました。

4つ目の願い
終わった後に最後の力を振り絞りながらラウリーの願い事をかなえる旅を再開します。この最後の願い事は「崖際で海に向かって唾を飛ばす」という力の抜けるような内容でした。メグは半笑いになりながらも、最後まで付き合うことにしていて、この二人いいコンビだなぁと僕は思いました。
ただ天候は良くなかったようで、到着したころにはすでに大荒れのようでした。ただでさえよぼよぼの老人にエネルギー切れかけの幽霊なのですから、天候の様子と相まって目的地まで迎えそうにはないという絶望感が大きくなっていました。
というわけで途中で妥協することになったのですけど、こんな時に限って一発目を外す、次の唾液が出ないというトラブルが起こり、さらにはベルチとエルフがやってくるという最悪の展開になっていました。まぁベルチもベルチでバイク失敗していたりとかしていたんですけど。…そういえばベルチ、ラウリーの窃盗が成功したらバイク買うとかなんとか言ってました。今回バイク乗ったのだから、ここでベルチの願いが叶ったといえるかもしれません。
さて決闘したあたり、ベルチはメグを見てるし、メグはラウリーが成功するまで耐えてるし、ラウリーはもう体が動きそうじゃないし、エルフは傍観してるし、どうなることやらでした。やっと動いたエルフの一閃にラウリーの心臓が止まった時なんか「終わった…」と思いましたよ。
まぁそれでも運ばれる寸前に例の光る石を使って、ラウリーを元気にさせて、(これがメグが天国に行く決め手となった)フランコ復活もさせられてたりしています。あの石の少年決めるときは決めてかっこよかったですよね。なんだかんだ丸く収まってよかったです。

【まとめ】
メグがただただかわいそうな話かと思えば、無事に楽園に行けて、さらに最後の最後で再会が……というほのめかしがあったりするなど、今までの問題の清算がこの後行われるんだろうな、という希望的な終わり方をしていました。はたして天国で母親と会った時、メグどんな言葉を交わすのでしょうか。
個人的な話になるのですが、作中通しても、毒舌妖精が一番好きなキャラクターになります(次いでトンネル少年)。
いちいちキャラが立っていて、犬人間との掛け合いや、なんだかんだ人間味があるAIみたいな感じがあって良きキャラだと思います。そのエルフが消える寸前にメグに言っていた「次はあなたとペアを組みたいですね」というのも、僕も「そうだそうだ!」と読んでて思うほどで、あの二人相性かなりよさそうな気がしてなりません。